「瑞桜を囲む素焼き瓦の寄棟」 茨城県立常陸太田特別支援学校

廃校となった小学校に増築を加えて、特別支援学校につくり変えることが、主たる要件であった。かつて小学校だった運動場の真ん中に樹齢80年のしだれ桜が根を張っていた。それを地域の人たちは「瑞桜」と呼んでいた。

増築校舎は、その瑞桜と適切な距離を図りながら、この大木を取り囲む矩折りに配置した。校舎と瑞桜どこに居ても眺めることができるこの学校を象徴する木として扱うことにした。
しかしながら、既存校舎は瑞桜よりも1mほど高い場所に建つ。昇降口はバスロータリーから敢えて距離を設け、緩やかなスロープで高低差を解消した。そして、この屋根のあるスロープを桜坂と呼ぶことにした。

遠くからバスで通ってくる障害を持つ子どもたちを子やさしく迎える学校にしたい。そのために、屋根は妻面をもたない寄棟とした。そして、素焼きの土瓦で葺いた。一方で、軒先は軽やかさにしたい。軒樋を設けずに茅負も薄くまとめ、軒天井も木材を用いた。この軒先から屋根構造を覗うことはできないだろう。

子どもたちは小学校1年生から最長では高校3年生までここに通う。目的は、やがては自立した生活ができる大人になることだ。そのために建築に何ができるのか。このプロジェクトを完成させるまでずっとそれを考えていた。

当初は変形の切妻屋根を燻しをかけた土瓦で葺くことを考えていた。関東平野と阿武隈山地の境目にある周囲の風景を考えてのことだ。けれども、途中から解答はそれだけではないのではないかと思いだした。寄棟の屋根形状は、切妻よりも高尚である。それだけに成立させるための平面形状も制約を受ける。また、落ち着いた表情となるだけに、建築としては極めてスタティックだ。
素焼瓦の屋根で、子どもたちの将来のすべてが解決するわけではない。けれども、物知り風の大人の感覚による選択が果たして正しいのか。そうした問いの結果、今や誰も見向きもしない素材によって屋根を覆う決心をした。
住所
茨城県常陸太田市瑞龍町
竣工
2016年03月
敷地面積
18,675.40㎡
建築面積
2,298.79㎡
延床面積
3,082.71㎡
構造規模
RC造一部S造 2階建て
*眞建築設計室との共同企業体による設計

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